一昨年のことだったろうか。
地元のテレビ局から電話があり、当商店街を取材するとのこと。
ついてはお昼に当店に立ち寄り、蕎麦なぞを食べてるところも撮りたいという。
この手の番組は見るのは良いが、出るのはイヤである。
しかし、商店街の一つということであれば、拒否するのも大人気ない。
取材の日の2〜3日前、お昼時なのに店はガラガラになった。
その時、いつも家族ぐるみで来てくれるお客さんがいらっしゃった。
「実は今度テレビの取材が入るのだけれども、こんなにガラガラでは
かっこう悪いねぇ。困っちゃうな。」などと話した。
するとそのお客さんは「都合がつけば来ますよ」と言ってくれた。
これで取り敢えずは絵になるな、と安心したものである。
取材当日は心配したほどでなく、けっこう忙しかった。
取材のアナウンサー達のメニューは後回しにしたくらいである。
約束のお客さんは少々遅れたが奥様と親父さんを連れて来てくれた。
たまたま取材者と席が近くであったため、インタビューされていたが
何を聞かれているのか、調理場からはうかがい知れなかった。
後で放送されたビデオを見て、話の内容が分かった。
「おいしいです」と言った後に、そのお客さんはこうも言ってくれた。
「このお店は丁寧につくっています」
単純にウマイとかマズイというのだけではなく、
そういう視点からも見ていてくれたのか、と刮目もし、嬉しくもあった。
正月の三日。
明日からの営業準備のため、店に来て片付け物をする。
ふと地元紙を見ると、そのお客さんの死亡記事を見つけた。
えー!ついこの間まで来てくれていたのに・・
その後、別の地元紙では追悼記事が載った。
一昨日の日曜日、せめてお線香をと、お通夜に参列した。
会場に入りきれないほどの参列者で各界の名士の顔があった。
喪主は奥様であったが、挨拶のなかで
「主人を尊敬しておりました」と述べられ、痛ましかった。
歳は小生より一つ下で高校の後輩でもある。
これからの地元経済界で必ずや強力な発言力を持つ人であった。
福島はもったいない人材を失ってしまった。
我が店は厳しい理解者の一人を失ってしまった。